12月も半ばを過ぎたよく晴れた日の昼近く、マイケル・ナイトはFLAG本部の専用駐車場へ相棒のナイト2000を停めると、勢いよくドアを開けた。 そこへ二人が出勤してきたのを知ったナイト2000のメカニックのエイプリルがやってきた。 「やあ、おはよう、エイプリル」 「おはよう、マイケル、KITT」 “おはようございます、エイプリル” 「マイケル、遅いじゃない」 エイプリルは子供をしかりつけるようにマイケルに言った、そして何か言い訳を言おうとして口を開きかけたマイケルを無視してナイト2000に向き直り、優しく聞いた。 「調子はどう? KITT」 “私は上々なのですエイプリル。調子が悪いのはマイケルの方です” 「なんだよKITT。俺はいつだって元気一杯だぜ」 KITTの言葉に抗議してマイケルが言い返す。 “ではお尋ねしますが、昨日の晩『こう休む間もなく働かされていたんじゃ身が持たない』と散々私に愚痴を聞かせて下さったのはどなたです?” 「んー…ああ…それはだなぁ……」 返事に困って言葉を探すマイケルだったが、とうとうギブアップ、とでも言うように肩をすくめた。 「わかったよ、KITT。このおしゃべりめ!」 マイケルがむきになってKITTを睨みつけているのを見てエイプリルが吹き出してしまい、それにつられてとうとうマイケルも笑いだした。 「あ、ところでデボンは? いるのかい?」 いたらまた小言を聞かされるか仕事のどちらかだ、と、半ば諦め顔でエイプリルに聞くと、 「デボンなら今朝早くに国防省のお友だちに呼ばれてロスアラミトスへ行ったわ。帰りは遅くなりそうだって」 「国防省? ペンタゴンの住人か? 何か嫌な予感がするな……。俺達の出番になりそうな話なのかい?」 「さあ、どうかしら」 エイプリルは、ナイト2000のボンネットの上でスキャナを滑らせていた手を止めた。 「さあKITT、チェックはおしまい。何の異常も無いわよ。……でもマイケル、今のところ事件と言えそうな情報は何も入ってないわ」 エイプリルの言葉に、マイケルは大袈裟に一回手を叩いた。 「ウワォ! KITT! 聞いたか? 今日は仕事は無しだ。そうとなったら出かけようぜ!」 “マイケル、疲れていらしたのではありませんか? 今日はゆっくり休まれた方が良いのでは?” 「何だKITT。お前俺のストレス解消法をまだよく分かってないみたいだな。いったい何年付きあってるんだ?」 “2年と4ヵ月です。分かりすぎているからこそ言っているのですよ、マイケル” マイケルはKITTのお説教じみた台詞に「またか」と首をすくめると、気を取り直して軽く言い放った。 「ヤボな事は言いっこなしだ。行くぞ!」 “やれやれ……、困った方ですね” KITTの独り言ともとれる言葉を軽く聞き流してナイト2000に乗り込もうとするマイケルに、エイプリルが声をかけた。 「マイケル! デボンから連絡があるかも知れないから、あまり遠出はしないでね」 「分かってるって!」 言葉の終わらぬうちに、マイケルはナイト2000のアクセルを踏み込んだ。 「本当に分かってるのかしら?! まったく困った人ね」 見る見る遠ざかっていくナイト2000の後ろ姿を見ながら、エイプリルは小さくため息をついた。 |