移動本部トレーラーの中で、サンダース准将とガース・ナイトとの会話を傍受していたエイプリルは、顔色をかえた。 「KITT。今の声……!」 エイプリルの声は強ばり、表情も凍りついたように堅い。 しかし、それに答えたKITTの声もエイプリルに負けない程の緊張感があった。 “ええ、エイプリル! 信じられない事ですか、あの声の主は間違いなくガースです。私の記録している奴の声紋と比較してみた結果、完全に一致しました。ガースは生きていたんです!” ガース・ナイト−−ナイトインダストリー創設者のウィルトン・ナイトの実の息子でありながら、その行状の悪さから祖国とナイトのあと取りとしての立場を追われた男。 そして本来自分がいる筈の場所に入り込んだマイケルを心底憎み、2度までもマイケルを殺そうとして果たせず、崖から海へ落ちて死んだと思われていたあの男が生きて三度マイケルを狙っている!! “エイプリル! マイケルの生命が危険です! さっきの電話で、ガースはサンダースにマイケルを連れ出すように言っていました。今のマイケルは全くの無防備です” KITTが悲痛な声で言う。 「分かっているんわ。こんな手の込んだ計画を立てたガースの狙いはそこよ。しかもそれだけじゃなくて、他にも何かの衛星も狙っているらしいわ。あの男の事だからその衛星もきっと大変なものよ。そっちも何とかしなくては」 “デボンさんに連絡をとってみてはどうです?” 「デボンは基地の中よ。サンダースの手の内にあるようなものだわ。もし真相に気づいた事が知られたら彼の命も危ない……。デボンをどこかに遠ざけられれば……」 エイプリルも必死だった。サンダースよりも先にマイケルを連れ出さなければマイケルの命が危ない。しかしガースのもう一つの企み……衛星の強奪も防がなければならない。その為には何とかデボンを説得するしか手はない。それも今すぐにでも……。 「そうだわ!」 エイプリルは妙案を思いつくと、ロスアラミトスの基地のデボンに電話した。 電話口にデボンが出るのを待つのももどかしげに、エイプリルは切り出した。 「デボン! KITTが本部に戻って来たわ。でも大変なんです。とにかく直にこちらへ戻って下さい! 見てもらわないと説明も出来ないの。大至急お願いします!」 エイプリルは真にせまった口調でそれだけ言うと、後はデボンに何も言わせる強引に電話を切り、大きく行きをついた。 “エイプリル、どうしようと言うんです?” 「これでデボンは疑われずにFLAG本部へ戻る筈だわ。そうすればデボンは安全よ」 “なるほど! では後はマイケルを!” エイプリルはトレーラーの後部ドアを開ける操作をしながら、 「病院へ急ぎましょう、KITT。トレーラーは後から来させればいいから」 “はい、エイプリル! 早く乗って!” KITTが運転席のドアを開けた。 エイプリルが乗り込むと、ナイト2000はすぐにバックしながらトレーラーから路上に降りた。そしてタイヤを軋ませてすぐさま南カリフォルニア病院の方へと方向を転換して発進した。 “間に合うでしょうか。サンダースに先を越されたら…” KITTが心配そうに言う。 「祈るしか無いわ。サンダース准将はマイケルを一体どこへ連れて行く気なのかしら……。KITT、ガースの居所は分かって?」 “電話番号から追った所では、モハーベ砂漠にあるバーストウの近くです。ここからだと150キロ程離れています” 病院へ急ぐナイト2000のモニターにその時前方の障害物が映し出された。 大型のトラックが狭い道路に入り込み、交差点で身動き出来なくなってしまったらしい。困った事にそのトラックはKITT達の行く手を完全にふさいだ格好になっていた。 “邪魔なトラックだ! エイプリル、しっかりつかまっていて下さい。前方のトラックを飛び越えます!” ナイト2000のインジケーターが一気にターボブーストのレベルまで点灯した。 スピードが上がり、エイプリルは体がシートに押しつけられるのを感じた。そして次の瞬間、ナイト2000のボディは大型トラックの上を飛び越えていた。 着地の衝撃にエイプリルは思わず目を閉じる。 “大丈夫ですか? エイプリル” 「もちろんよ、KITT」 エイプリルは今飛び越したトラックを振り返って見ながら言った。 この出来事を、唖然として見ていた人々とを尻目に、エイプリルを乗せたナイト2000は何事も無かったかのように走り去った。 |