「残念ですわ」 エイプリル・カーチスは、手にしていた報告書をデボンのデスクに戻すと、小さく首を振った。 ロサンゼルス北部にあるFLAG本部の前庭では、そろそろ冬の到来を思わせる11月の風が、時折強く木々の葉をゆさぶっていた。 しかし、ここデボン・シャイアーの執務室の中までは、その晩秋の気配も届く事はなく、室内にはエアコンの微かなうなりが聞こえている。 エイプリルが報告書を読んでいる間、すっかり暗くなった窓の外を黙って眺めていたデボンは、彼女の言葉に頷いた。 「デュポン博士の亡くなった状況がどのようなものだったかはその報告書を見るだけでは分からないが、せめてもう少しそのコンピュータの人格が安定する時期にまで教育が進んでいたら、こう言う結果にはならなかっただろうな」 「そうですわね。<アダム>がKITTくらい大人になっていたら耐えられたでしょうね」 「そうだ。KITTのように完成された人格ならば間違いは起きはしない」 デボンは机の上に置かれていた報告書を取り上げると、再び「起きてはならんのだ……」と呟き、自分の心の中に沸き起こる微かな不安とともにそれをキャビネットの一番奥のファイルへとしまい込んだ。 「さて、すっかり遅くなってしまったが、用が無ければこれから一緒に食事でもどうかね?」 気分を変えようとするかのように明るく言うデボンに、エイプリルも笑って答えた。 「ええ、お供させて頂きますわ」 「いや、最近ダウンタウンにオープンしたレストランでね、アルザス地方のうまい料理を出す店が……」 この報告書の事が、それから1ヵ月以上過ぎた後に、思いもよらない形でFLAG自身にふりかかってくる事などは夢にも思わない二人の関心事は、すでに今夜のディナーへと移っていた。 |