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Chapter 13




 ナイト2000はロサンゼルスへ通じるフリーウェイをエイプリルとミーティングを続けながら、かなりのスピードで走り続けていた。
「またデボンから連絡があったわ」
“相変わらず私の所在の件ですか?”
「そうよ」
“で、何と答えたんです?”
「まだ見つからないって。デボンも誰かにせっつかれているみたいね」
“いいんですか? デボンさんを困らせて”
 KITTの心配に、ナイト2000のモニタに移ったエイプリルはふくれ面をして見せた。
「少しくらい心配させてあげればいいのよ! そうすれば少しは懲りるでしょ」
 声にもかなり刺がある。
“怒らせると女は恐い”
「何ですって!?」
 KITTの呟きを聞き咎めて、エイプリルが問い詰める。
“いえ、マイケルが以前私に教えてくれた言葉で……”
「まぁ、マイケルったらろくな事を教えないんだから」
 エイプリルはすっかりいつものペースに戻って、
「でもさっきのデボンの話だと、FLAGが今日中にあなたを見つけられなかったら、軍が動きだすと言う事になっているらしいわよ」
“軍か、ですか? 私を探す為に? 大袈裟な”
「本当ね。でも軍まで動かせる相手となると…」
“ペンタゴン!!”
 KITTの答えにエイプリルも頷く。
「ええ。デボンの様子がおかしくなったのも、前日に国防総省のお友だちに呼ばれて出かけてからよ。マイケルが撃たれたと言った時一緒にいた人がそうらしいけど……確かクレメント次官補とか言っていたわ」
 デボンにこのような計画を飲ませられる者がいるとして、国防総省の人間ならありそうな話だ。
“そうですね。ただ、それだとまた妙な事もありますよ”
「何が?」
“国防総省が私の様なコンピュータに興味を持つのは納得出来ます。でも私が<アダム>の様なコンピュータだとどうして知ったのでしょうか。私の事は極秘事項の筈でしょう?”
 その通りだ。ナイト2000のコンピュータ・システムが「感情を持っている」と言う事を知っていなければ、そもそもこの計画は無意味だ。しかし、ナイト2000に関するデータはナイト財団の中でもトップクラスの機密扱いになっていて、KITTの事を知っているのは一握りの人間に限られていた。特に政府に対してそれは厳重に守られていた。かつて、ナイト2000の試作車であるKARRの開発中、その性能の情報が一部外部に洩れた。その結果、政府のよこやりが入り、財団がかなり不愉快な思いを味わったと言う経緯もある。
 あるいは一部の民間人が、FLAGが処理してきた事件との関りの中でKITTの事を偶然知る事はあっても、それが政府に伝わる可能性は低い。
「でも他に思い当たる線が無いわ。……そうだわ、KITT。クレメント次官補の線から国防総省を当たってみてちょうだい」
“はい、エイプリル”
 即座にKITTはアーリントンにあるペンタゴンの情報管理用コンピュータへ、衛星通信回線を使ってアクセスした。
 ナイト2000のモニターに、ペンタゴンのコンピュータにセットされている情報保護の為のセキュリティ・システムが写し出される。
“なる程。しかしこんな程度のセキュリティなんて私に言わせれば子供だまし、まだまだ改善の余地ありだ”
 そんな軽口を聞く間にもKITTはセキュリティ・システムの中核を成す保安アルゴリズムのバイパスを完了した。そしてクレメント次官補に少しでも関りのあるデータのチェックを進めて行った。
 すると膨大な量のデータの中に「アダム」と言う言葉を含んだくつかのデータが見つかった。それらはいずれも「電子保安司令部会」議事録とその関連資料ばかりだった。
 議事録の中には「アダム」の事故報告、KITTがどんなコンピュータなのかの他に、もしKITTが暴走したらどれほど狂暴で恐ろしい存在となるかの予測が、延々と、しかもかなり誇張された表現で記されていた。
“あんまりだ! これでは私はまるで悪魔か化け物だ…”
 議事録の中の自分についての記述に、KITTはすっかりショックをうけて呟く。
「どうしたの? KITT、何か見つかったの?」
“ええ…。見つけました。今そちらに送りますから見てください。ひどいものです!”
 KITTは拾い出したデータをFLAG本部にいるエイプリルへ転送した。
 エイプリルはKITTが腹を立てているのを不思議に思っていたが、送られてきたデータを読んで納得した。
「……確かにひどい言い方ね」
“怪物扱いですよ。私はそんなふうに思われているんでしょうか……”
 KITTがしょげかえったように聞いた。
「そんな事はないわ。あなたを本当に知っている人ならね」
“それを聞いて安心しました。でもこれで今度の事件が国防総省の計画だと言う事がはっきりしましたね”
「そうね。でも……」
 モニタの中のエイプリルは、プリントアウトされたデータを目で追いながら何か考えている。その時間があまりに長いので、KITTは不安げに声をかけた。
“エイプリル。何か気になる事でも?”
 エイプリルはプリンタの用紙から顔を上げた。
「そうなの。この会議の記録では今度の計画はサンダース准将と言う人が強引に決めたように見えるわ。資料も殆どこの人物から出ているし、発言も一番強硬よ」
“そう言われるとそうですね。議題の提出もこの人物が行っています”
「ねぇ、KITT。このサンダース准将について調べてみてくれない? 経歴とか、ナイト財団との関りがあるかどうかもね」
“判りました!”
 次第に事の真相に近づく手応えが感じられ出して、KITTも調査を楽しんでいるようだった。エイプリルも今はもう自分たちの調べている方向に間違いは無いと確信していた。
 サンダース准将のデータの調査にはさすがのKITTもかなりの時間を要した。
 その間にもナイト2000は殺風景なフリーウェイを走り続け、あと2時間もすればロサンゼルスと言う地点まで来ていた。マイケルの無事がはっきりした今、とりたてて帰途を急ぐ必要も無い。
“エイプリル。サンダース准将についてのデータを調べ終わりました”
「どう? 何か怪しい所はあって?」
“あるどころか、怪しい所だらけですよ。このサンダースと言う人物はコンピュータに関してはまるで門外漢で、電子保安司令部会へは今回初めて加わっています。とても<アダム>に関心を持つような人物ではありませんね。もちろんナイト財団との関りは一切認められません。
 私生活面ではかなりのギャンブル好きで、その結果銀行口座は慢性的に借越しです。だいたいカジノでの平均勝率をまともに考えたら、儲けようと思うなんて愚かな事だとすぐ判りますよ。総合的には胴元が儲かる仕組みなんですから。もっとも私の計算によると……”
「KITT? ギャンブル必勝法の講義はこの次にしたら?」
 調子に乗りすぎのKITTをたしなめるエイプリルも、モニタの中で笑っている。
“ごめんなさい、エイプリル。でも銀行口座を調べて面白い事が判りました。マイナス続きだったサンダースの口座に、この数ヶ月で合計500万ドルもの大金が振り込まれています。振込み人はすべて同じ人物で「G・キング」になっています”
「キング? 何者かしら」
 エイプリルは小首を傾げた。
「500万ドルって言ったら軍のお偉方を買収するには安くはない額ね」
“それではエイプリル、サンダース准将はこのキングと言う男に買収されたと言うのですか?”
「辻褄は合うわ」
“そうだとすると、これも重要な事だと思いますが、サンダース准将は現在ロスアラミトス海軍航空基地にいます!”
「デボンのいる所じゃない! 状況をつかむには最高の場所って訳ね。もう疑う余地無しだわ。KITT、『G・キング』が何者かわからない?」
 KITTは『G・キング』に関する情報を検索する間沈黙を続けた。エイプリルは辛抱強く待った。
“……だめです。手がかりが少なすぎます”
 いくらKITTでも、フル・ネームさえ分からない人間の情報を捜すのはやはり無理だった。第一「キング」が本名である可能性も低いのだから。
「困ったわね。せっかくいい線まで行ったと思ったんだけど……」
 もしこのキングと言う人物がこの事件の黒幕ならば、サンダースと連絡をとりあっているだろう。その「現場」が押さえられれば手がかりは得られるのだが……。
「そうだわ! 偽の情報を流してみましょう」
“偽の?”
 KITTが驚いてエイプリルに聞き返した。
「そう。デボンにあなたが見つかったと知らせるの。但しまだどこかを走り回っている事にするの。サンダース准将が犯人の仲間なら、きっと誰かに連絡するはずよ」
“なる程! それをキャッチしようと言うのですね”
「その為にはあなたの力が必要だわ。私もこれから移動本部でロスアラミトスへ向かうから、そこで落ち合いましょう」
“わかりました、エイプリル。それではまた後で”
 ナイト2000はロスアラミトスに向けてスピードを上げた。


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