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Chapter 14




 ナイト2000がエイプリルとの合流地点に着いた時、FLAGの移動本部の大型トレーラーはもう既に到着していた。
 トレーラーに収容されたナイト2000を、エイプリルが笑顔で出迎えた。
「お帰りなさい、KITT。大変だったわね」
 すっかり砂埃で白っぽく汚れてしまったナイト2000のボディを見て、エイプリルはいたわりの言葉をかける。
“やはりここへ戻るとほっとしますよ、エイプリル。随分久しぶりに家に戻った気分です。ここでボディの汚れを落して気分一新と行きたい所ですね”
「私もよ。ここで一休みと行きたいんだけれど、もう少し頑張りましょう。今からデボンにあなたが見つかったって連絡をするわ。あなたはサンダース准将の電話を傍受出来るように準備しておいてちょうだい」
“判りました。いつでもOKです”
 エイプリルは事件の黒幕をあぶり出す罠を仕掛ける為に、トレーラーの壁面に取りつけられている電話器を取った。


 「……デボン、君にだ」
 クレメントが基地のオフィスで受話器をデボンの方に差し出して言った。
 オフィスのソファに座ってKITTの情報をイライラと待っていたデボンは、クレメントの手から受話器をひったくるように受けとった。
「もしもし! 私だ。エイプリル、君か。KITTは見つかったのか」
『デボン。そんなに大きな声を出さなくても十分聞こえるわ。KITTの所在をキャッチするのに成功しました』
 受話器の向こうからはエイプリルの落ち着いた声が聞こえてくる。それを聞いたデボンはほっとして大きく頷いた。
「そうか、よくやった、エイプリル。で、KITTは今どんな状態なのかね」
『ただ走っているだけのようです。現在はロサンゼルス郊外にいますけど、連絡はまだとれていません』
「そうか……。判った。君は引きつづきKITTを追跡してくれ」
 そう言ってデボンは受話器を置いた。その顔には安堵感と不安の入り交じった複雑な表情が浮かんでいた。
 ナイト2000の居所が判り、少なくとも危険な状態ではなさそうだと言う事も判って、これで当面の軍の介入は無くなった訳だ。それは喜ばしい事だ。
 しかし、見つかったナイト2000が正常とは言えない状態なのは大いに不安材料だった。
「……とりあえずナイト2000の居場所は掴んだ。これで君も文句はあるまい?」
 デボンは自分の不安を隠してクレメント次官補に向かって言った。クレメントもデボンの電話の対応でおおよその話の内容は判っていたらしく、
「まぁ取り敢えずは、だな。しかしテスト終了までまだ36時間以上あるからな」
 −−まだまだ油断は出来ない、と言う訳か…−−
 サンダース准将に報告する為に内線をダイヤルしているクレメントの後ろ姿を、デボンはいまいましげに見つめた。


 デボンのいる基地から数百メートル離れた路上に停まったFLAG移動本部トレーラーの中では、KITTがサンダース准将の部屋の電話の傍受を始めていた。
“今サンダースは私に関する報告を受けています。内線の相手はクレメント次官補です”
「順調ね。この後准将がこちらの希望通りに動いてくれるかが問題だわ」
 エイプリルはKITTの側の椅子に座ったまま呟いた。
“その心配は無い様ですよ。サンダースが電話をかけています。……外線です”
 いよいよ動きだした! エイプリルは身を乗り出して、
「KITT。電話の内容をモニターして! それから録音と、相手の居所の確認も忘れないでね」
 そう言うと、音声モニター用のヘッドホンを着けた。



 「サンダースめ、一体何をしている! いつになったらナイト2000を始末出来るんだ。計画の実行まで後1時間しかないんだぞ! それなのに連絡もよこさん!」
 バーストウの町近くの建物の一室で、サンダース准将に「ミスター・キング」と呼ばれた男が、落ち着かない様子で歩き回っていた。
「怖じ気づいて逃げたしたんじゃない?」
 隣の部屋から出てきた女が、戸口にもたれかかりながら男を目で追って言った。
「逃げるだと? 奴に逃げ場などありはしないさ。奴にはまだしてもらわなければならん事があるからな…。それよりマイナ、お前も準備は出来ているだろうな」
「ええ。ヘリならいつでも飛び立てるわ。あんたも意外に心配性ね。ちゃんと脱出用ヘリなんか用意させるんだから。もっと自信家だと思ってたけど」
「フン! 完璧な作戦とはそこまで考えておくものだ」
 その時壁に取りつけてある電話が鳴りだした。
 マイナが面倒くさおそうな物腰でそれを取った。
「はい……ええ、いるわ。ガース、あんたによ。サンダース准将よ」
 と、受話器を差し出す。男はそれを受けとると、
「何をしていた! ナイト2000はどうなっている。始末出来たのか!?」
 マイナは男が腹をたててサンダースを怒鳴りつけているのをおかしそうに見ていた。男の方は、それでもしばらく相手の話を聞いているらしい。やがて、
「……分かった。狂っちまった車の事はもういい。スクラップに出来なかったのは残念だったが、無理に軍を動かして怪しまれては元も子もないからな。どのみちこれで我々の邪魔もできまい。……こっちは予定通りだ。1時間後に例の場所へ向かい、輸送隊を襲撃して衛星を頂く。お前も手筈通り病院からマイケル・ナイトを運び出して、ここへ連れて来い。……あの車がスクラップにされたと知った時の、奴の苦しむ顔が見たかったが…。まあいい。マイケルを南アフリカへ連れて行けば、それ以上の苦しみを、今度こそ死ぬまで味あわせてやれるんだからな。……フフ……アハハハハ……」
 キングは……いや、ガース・ナイトはそう言うと、受話器を手にしたまま、さもおかしそうに大声で笑いだした。そのマイケルとそっくりな顔は、残忍な笑いに歪んでいた。


トレーラー


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